大成長!? 学生ビフォーアフター

社会に飛び立つ力を!

法学部法学科 大久保 直樹 教授
法学部法学科 大久保 直樹 教授

法学というと、裁判官や検察官、弁護士など法曹界を目指す人の学問というイメージが強いかもしれません。しかし、ルールに基づき公正に分析するという法律的なものの見方や考え方は、社会のあらゆる分野で、広く応用が可能な学問です。中でも大久保先生の経済法ゼミは、企業の経済活動に広く関わる「独占禁止法」をメインに研究しているゼミで、学生からの人気を集めています。OB・OGをはじめとする社会人を前に研究成果をプレゼンテーションする場を設けていることも、人気の理由のひとつです。
(内容はすべて2015年12月~2016年1月の取材当時のものです)

chapter 1

「あのアイスクリームはどの店でもいつも同じ価格。安くならないのかなあ…」、「人気ゲームソフトを買おうと思ったら不人気ゲームとセット販売されていた…」。なぜ? どうして? と感じたとき、あなたはきっと独占禁止法の学びの入り口にいます。そもそも独占禁止法とは、どのような法律なのでしょうか? そして大久保先生が、ゼミ生に期待していることとは? 先生にお話を伺いました。

企業活動に深く関わる「独占禁止法」

「独占禁止法」とは、企業の自由な競争を阻害する様々な行為を禁止することで、消費者の利益を確保しようとする法律です。企業の経済活動に深く関わっており、経済法の中核をなしています。正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といい、独禁法と呼ばれることもあります。(以下、独禁法と記します)

先の例ですと、アイスクリームの例は製造販売事業者による再販売価格の拘束に、ゲームソフトの例は商品の購入者に別の商品を強制購入させる、抱き合わせ販売に当たるかもしれません。しかし、経済法ゼミでは、ある行為が独禁法に違反するかどうかよりも、それを判断するためにどのような事実関係に着目したらよいかわかるようになることが、重要と考えています。

▲ ガラス張りの小規模な教室で、3年生と4年生が机を向き合わせ、一緒に学ぶスタイルの大久保ゼミ。この適度な距離感が、発表の緊張と、自由に発言できる空気の両方をバランス良く作り出す。

「交流会」はこうして始まり、進化した

このゼミの大きな特徴として、OBやOGの社会人を招いて開催する「交流会」というものがあります。もともと交流会はゼミ生からの発案でした。当初は、「就職活動のアドバイスをもらう会」のような想定でした。私としては、ご足労いただいたうえにご助言までいただいては申し訳ないと乗り気でなかったのですが、若いOB・OGたちが社会に出てから仕事のハードさを知ったのか、「学生時代にもっと勉強しておけばよかった」とこぼしていたのをふと思い出しました。そこで、ゼミ生たちが独禁法事件の判例報告を行えば、OB・OGたちにとっては久々に座学の雰囲気を味わえますし、来てくださったお返しになるのではないかと考え、始めたのが交流会です。

将来的に、ゼミ生たちはかつて独禁法を学んだOBやOGになるわけです。私が強く望んでいるのは、そのときに今度は社会人として交流会に出席してもらい、初めて聞いた話でも的確な質問ができる、そういう社会人になっていてほしいと思いますし、私自身が大変楽しみにしているところではありますね。

ちなみに、交流会には、OB・OG以外に、初見の問題でも的確に反応し、疑問点をついてくるような私の知人もお招きしています。ゼミ生にとっては、OB・OG以外の社会人と出会えることで期待している面と、「厳しい質問が飛んで来るのでは…」とプレッシャーになっている面があるようです(笑)。

「ゼミの説明会で一番面白かったから」という理由で大久保ゼミを選んだというゼミ生も多い。ちなみにその時のテーマは「映画スパイダーマンと独禁法についての話」だったという。独禁法の関わるフィールドはとても広い!

情報を集め、体系立てる力に

今の学生は、Twitterの140字が限界とまでは言いませんが、長い文章を読まなくなってきていると感じます。私が学生の頃は、判例をひとつ読み、それについて1万字弱くらいの文章を書くという訓練をさせられました。この蓄積が、研究者になった今、とても役立っています。専門研究者になるつもりがなくても、社会人になると、想像している以上に多岐にわたる資料を読み、要約する力が求められます。長文を読み込んでいく経験は決してムダにはなりません。

実際に、100ページ位ある、しかもかなり入り込んだ内容の判決文を前にしたとき、最初は手も足も出ないでしょう。でも、何度もアタックしているうちに全体像や背景がおぼろげながらも見えてくるようになります。一つの事件を核にして、周辺情報を徹底的に集め、自分なりに体系立てて整理していく力は、社会に出てから広く役に立つものです。

▲ 「ゼミ自体は、学生が発表し、コメントする場という感じで、教えこむ指導ではないですね」という大久保先生。指導を受け止めてどう行動するかは、常に学生の側に委ねられている。

大久保ゼミの1年間

春~初夏
独禁法について学ぶ
春~初夏
独禁法について学ぶ

教科書といくつかの判例を通じて、独禁法についての概論を学びます。教科書は、短期間で知識を身につけやすいものを選び、採用しています。

▲ 判例報告の発表資料。専門用語が正しく理解できていることは、研究の大前提となる。

初夏~年末
研究テーマの決定と
発表資料作り
初夏~年末
研究テーマの決定と
発表資料作り

最近の独禁法関連の事件の中から、ゼミ生全員で取り組めるようなボリュームと話題性を考慮し、1件を指定します。その事件について、交流会での発表を目指し、ゼミ生が分担協力して判例報告の資料作成に取りかかります。発表の練習と添削を繰り返し、精度を高めていきます。

▲ 資料を読み込む大久保先生。集中力をみなぎらせる姿は、思わず圧倒されるほど。

翌年1月
交流会での発表

例年1月に交流会を開催しています。それまで研究してきた独禁法の判例報告をプレゼンし、議論や質疑応答を行います。質疑応答では、多彩な分野で活躍している社会人ならではの、本質を突いた鋭い質問が飛んでくることもあり、そうした疑問に答えることも学生の成長につながっています。今年度は以下のような3部構成で行いました。

  • 第1部
    3年生による「JASRAC事件」の報告と議論
  • 第2部
    4年生有志による「ブラウン管価格協定審決」の報告と議論
  • 第3部
    3年生によるスピーチ
    テーマ「独禁法と私~1年間の活動を終えて」と質疑応答

※JASRAC(ジャスラック)
一般社団法人日本音楽著作権協会の英称の略称。音楽の著作権を持つ者から信託を受けて、利用許諾、利用料の徴収と権利者への分配、著作権侵害の監視と法的責任の追及といった、音楽著作権の管理を主な業務としている。

※JASRAC事件
JASRACが採用している音楽利用料の徴収方式が、他業者の新規参入を妨げ、独禁法に違反しているのではないか、として争われた訴訟事件のこと。発端は2009年、JASRACの徴収方式は独禁法に違反しているとして、公正取引委員会が排除措置命令(改善を命じること)を出した。これを不服としたJASRACの申し立てにより、その命令は取り消された。ところが今度は著作権管理の新規参入業社である株式会社イーライセンスが原告となり、命令の取り消しはおかしいとして、公正取引委員会を提訴。2015年、最高裁判決により、イーライセンスが勝訴した。

今回のテーマを選んだ理由は?

「JASRAC事件」を選んだのは、音楽や著作権という学生にとって身近に感じられる話題だったこともありますし、来てくださる社会人の方もJASRACと公正取引委員会の裁判のことは広く話題になった事件なので、興味を持ちやすく、質問しやすいだろうと考えたからです。社会人を前に、通り一遍の報告をするのではなく、やるからには活発な議論が生じるような会にしたい、ゼミ生にも来てくださった方にも有意義な時間を過ごしていただきたい、そんな思いがあります。

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